少子高齢化の進行で優秀な人財を獲得することはますます難しくなる一方で、能力のある人財が退社してしまう環境変化において、中小企業はどのように対応すべきかについて考えます。
(1)「優秀な人財を雇用するから外部人財を活用する」という発想の転換
業績が好調な中小企業は、人手不足という外部環境の変化にうまく付き合っています。一方で業績が低迷している企業の経営者からは、「人手不足で仕事が回らない」、「人財募集をしてもよい人財が集まらない」といったネガティブな発言が特徴的です。人手不足に陥っている企業では、必然的に優秀な人財への負荷が大きくなり、能力のある社員が転職してしまうといった悪循環に陥っています。業績が好調な中小企業の経営者は、自社の人財マネジメントを人財不足という外部環境の変化に順応させています。このような企業では、能力の高い優秀な人財をはじめから中小企業が採用できるとは考えていません。どのようにしているかというと、課題に応じて外部の専門家を適材適所で活用しています。例えば、新規事業開発する場合、その分野や業界に精通した外部の業界経験者を外部人財として活用します。社員として雇用契約するのではなく、会社対個人の業務委託契約を締結します。請負契約であるため、仕事をする場所や時間帯などは個人に裁量がありますが、仕事の成果には責任が発生します。
外部人財を活用する業務委託契約では、仕事を通じてお互いの仕事の進め方や人間性を知ることができます。会社側は、仕事の成果だけでなく仕事への取り組み姿勢や資質を見ることで、受託者と再契約するかを判断できます。仕事を請け負う側の個人も有能であれば、複数の企業と業務委託契約をしているため、クライアント企業のビジョンや経営者の資質などを見て、どの企業と契約を継続するか選択が必要になります。能力のある人財であればあるほど、いくら報酬がよくても企業や経営者に共感できないクライアントとは働きたくないと思う傾向があります。
優秀な人財を雇用するのではなく外部人財として仕事をしてもらうことで、企業と個人の間には雇用契約にはない厳しさが双方に生まれます。もちろん、外部の人財を活用し続けるだけでは次世代のマネジメント層が育ちませんので、最初は外部人財であるものの、「この人に当社の次世代を担ってほしい」と思う人財がいれば時間をかけて口説くことが必要です。この段階では、経営者としての資質や魅力が問われます。
(2)意欲のない社員への固定給を外部人財に投資するという選択
入社から年月が経つと、最初は熱量が高かった社員も徐々に向上心を失い、日々の業務をこなすだけになりがちです。年功序列や終身雇用が過去の産物になったとはいえ、日本の労働基準法ではやる気のない社員であっても給与の引き下げはかなりハードルが高いといえます。給与を下げたらこれまでの残業代を社員から請求されたという話も聞きます。外部環境の変化が激しい市場環境において、向上心やチャレンジ精神に乏しい社員を雇用するメリットは徐々に減少しているのではないでしょうか。社員に新しいスキルを身に付けさせるためには経費もかかりますし、教育投資した社員がいつまで働いてくれるかも不確実です。
もちろん、外部の人財をマネジメントするマネージャーが必要になりますが、そういった人財でさえ必ずしも雇用する必要はありません。会社や経営者のビジョンに共感していてマネジメント層との信頼関係があれば、外部の人財でも十分につとまるのではないでしょうか。
このような考え方を中小企業で実行するには決断が要りますが、意欲のない社員に毎月固定給と社会保険料を支払続けるリスクより、有能な将来社員になる可能性を秘めた人財に業務委託契約で報酬を支払う方が、効果的な資金の使い方だと思います。
(3)自社にフィットする外部人材とは継続的に取引することで取引コストが下がる
社員を雇用するメリットの1つに、業務で発生する取引コストが低いことがあります。同じ会社でずっと仕事をしていれば、細かい指示を出さなくても「阿吽の呼吸」とでもいうべく経験効果によりコミュニケーションに使う時間が短縮できます。一方、外部の専門家を活用すると、社内では常識であっても外部では通用しないことが多くあるため、業務内容の要件定義に時間をかける必要があります。自社の仕事に慣れるまでにはある程度の取引コストが発生することは見込んでおく必要があります。初めて外部人財を活用する際に要件定義な時間を使い、途中段階で齟齬が生じ大幅な軌道修正が必要にならないように気を付けましょう。
自社にフィットする外部人財であれば、初めはコミュニケーションに多くの時間を使っても、次回からは時間を短縮できますので、相互理解を深めるためにも曖昧なコミュニケーションは避けることが長期的な信頼関係を築く上でも大切です。
まとめ:
年功序列や終身雇用が過去の産物になった今でも、企業は自社にフィットする有能な人財を必死に採用しようとしていますが、本当にその仕事は外部の人財をマネジメントすることで達成できないのか考えてみましょう。社員だから社内の機密事項が守られ、安心して仕事が任せられるというのは幻想かもしれません。確かに初めて外部人財を活用する場合は、「納期をしっかり守ってくれるのか」、「こちらの期待に合う成果を出してくれるのか」といった不安な要素もありますが、外部の人財を活用することで得られるメリットに目を向けてみることも必要です。
長島