どのように海外市場を目指しますか?

2018-06-10 Global Consult Group

どのように海外市場を目指しますか?

筆者の四カ国16年以上にわたる海外駐在を通じて得た、「海外から見えた日本」を幾つか挙げますと;

  1. 朝のラッシュ時3〜4分刻みの列車ダイヤの組織運営能力を持ち、1分遅れただけで乗客に謝る国は他にない。(日本のサービス品質)
  2. 日本で作り込まれた製品はなかなか故障しない。(ものづくり品質)
  3. 現地で起きた事件が日本でより深刻に報道されている。(日本での情報把握・分析)

日本のサービス品質、ものづくり品質そして日本での情報把握・分析という視点で「どのように海外市場を目指すのか?」を考えてみます。

(1):日本のサービス品質

一般的に、品質と価格とは正比例の関係にあります。3〜4分刻みの列車ダイヤは相当高品質のサービスです。列車ダイヤに限らず、水・電力・通信をはじめとする日本の公共サービスは安心・安全を最優先とした安定的かつ高品質なサービスを提供しています。しかしながら公共サービスでもあり価格は上方硬直的です。海外では、サービス品質のボトムラインに沿って公共サービス料金を低く抑える政策思想です。

「日本の高い電気料金が日本企業のコスト競争力を弱めている」という議論がありました。一方で高品質の電力を使って、高付加価値の製品・サービスを生み出すという市場ニーズ(医療、精密加工など)も存在します。常に日本基準のサービス水準を目指すのではなく、様々な市場ニーズに対応して様々なサービスレベルを柔軟に提供できる「サービスの多品種・少量生産」が海外市場戦略の一つの鍵になるかも知れません。

日本生産性本部は昨年7月「サービス品質の日米比較」という調査レポートを一般に公開しています(詳細はhttps://www.jpc-net.jp/study/sd4_sum.pdf を参照して下さい)。両国の人々が求めるサービスの内容とそれに対する価格のあり方を、実証データをもとに分析されており興味深いレポートです。「市場ニーズに見合う提供サービス内容を見極め、それを採算の取れる価格で提供する多品種・少量・適正価格戦略」が鍵になります。正に、日本市場で培った日本の中小企業の強みを活かせる海外戦略の方向性だと思います。

(2):日本のものづくり品質

筆者は海外の顧客にターンキーベースで通信プラント輸出を行う仕事をしてきました。ほとんどの海外顧客から、日本の通信プラント設備は故障しないという評価を常に受けてきました。日本のメーカーの人は、日本の作り込み或いは摺り合わせ技術は最大の技術的強みであり、様々なパーツやコンポーネントを独自のノウハウで作り込みシステム全体として安定稼働させることに自信を持っておられました。

一方で、システム全体を色々なモジュールに分け、各モジュールをつなぐインターフェースを標準化する技術、いわばものづくり技術を標準化して、システム全体をコントロールするソフトウェアなどで独自性を出す技術はあまり得意ではなく、海外企業が優れています。日本のものづくり技術もこのモジュール化に向かって行くべきなのでしょうか?また海外企業とのモジュール化競争に打ち勝てるのでしょうか?

日本の中小企業のものづくり現場では、「こだわり」や「尖った技」がその企業の核となる知的資産になっています。そういった「こだわり」や「尖った技」を一つ一つのコンポーネントとして摺り合わせて、「多品種・少量・高品質」な全体システムにして出て行くことが海外市場での競争力を高めると思います。我々中小企業診断士はこういった戦略のまとめ役を果たしたいところです。

(3):日本での情報把握・分析

メディア用語でEcho Chamberという言葉を最近聞きました。反響室(Echo Chamber)の中で声を出すと大きく響く効果のことで、SNSによる加速度的なリアクションなど、一つの事象が増幅されて捉えられる現象を指します。同じ時間帯に同じニュースを同じ切り口で報道され、この Echo Chamberのような現象が日本では多いように感じます。海外に居たときに、日本から安否を気遣う電話が突然かかってきて逆にびっくりする経験を何度かした記憶があります。

日本人は全体でまとまって行動することが非常にうまいですが、個性を発揮することは苦手です。ものの見方や捉え方がどうしても同じになる傾向があります。海外に出て行くとき、このモノカルチャー的なエネルギーが効を奏す場合もありますが、海外に出て見て日本で抱いていた感覚と現地で得た感覚とのギャップの大きさに驚くという経験は、多くの日本人がされていると思います。

国内においてもまず現場を訪れるのが営業の基本と言えますが、ましてや海外の場合では実際に行って見て現地の事情を把握することが第一歩です。それによって日本で考えていた事業戦略、特に「何で勝負できるか」をよく見極めることが重要になります。

まとめ:

高度成長期、「日本型ものづくり」が一つのブランドとして海外市場からも注目され、どんどん海外への進出を行いました。当時と比較して、現在は海外市場進出への人材・ノウハウ・人脈等の知的資産がかなり蓄積されてきています。蓄積されている知的資産を活用した「中小企業の高品質、多品種、少量、適正価格戦略」の海外展開を一つのテーマにして考えていきたいと思います。

執筆者

武藤 敏直

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